2001年2月25日神奈川県保険医協会第3回医科歯科連携小学習会
「歯周病と病巣感染」の中で使用したものです。 

 スウェーデンイエテボリ大学のリンデ教授を中心にしたグループは、1980年から90年代にかけて、優れた系統的デザインの実験を繰り広げ、それまで混沌としていた、歯周病の謎について次々とベールを剥ぎ、私たちの前に、歯周病の病態、治療方針を明確に示しました。
 私は非常に感銘を受け、リンデ教授の日本公演には欠かさず足を運び、イエテボリ大におけるサマーセミナーの受講もいたしました。
 私の診療所ではこのスカンジナビア学派の考え方に基づいて治療行っています。その一部について説明いたします。

 歯というのは骨とともに硬組織と呼ばれています。粘膜や皮膚などは上皮組織と呼ばれていますが、歯はこの上皮組織から硬組織が突き出ている形をしています。言い換えれば、この境界に当たる歯周組織は体をシールドする上皮組織が途切れる場所であり、体全体からいえば特異な場所であるといえます。
 歯周組織は、専門的には、歯肉、固有歯槽骨、歯の周りの骨ですね。それから、歯を支える靭帯、歯は骨に直接植わっているのではなくて、歯根膜という歯に加わる力を受け止めるクッションを通じて骨と結びついています。その歯根膜を歯の方につなげているところが、セメント質と呼ばれています。

 歯周病の定義というのは、明瞭にはいわれていませんが、歯肉炎というのは、歯ぐきが細菌によって炎症を起こした状態をいいまして、歯周炎というのは、歯ぐきが炎症を起こした状態プラス骨の失われた状態をいいます。

 歯周炎は、だいたい加齢とともにみられるものですが、わずかな人に免疫などの問題で、子供のころから起こる前思春期性歯周炎、若年性歯周炎と呼ばれるものになることもあります。
 成人性歯周炎というのは、歯のお手入れが悪いと起こるよくみられるもので、急速進行性歯周炎というのは、成人であっても、特に歯周炎が進みやすいものをいいます。

 歯周病についてリンデ先生たちのグループは、世界のいろいろな地域スリランカ、アメリカ、タンザンニア、スウェーデン、日本などで、疫学調査を行って、1つの結論を導きました。
 どこの地域にいっても、文明生活があるなしにもかかわらず、人類において7%の人がひどい歯周炎をもつということです。ということは、7%ですから1割の人、1割の人がもともと生まれながらにして歯周炎罹りやすい体質であるということです。
 歯周組織が疎な構造をしている。歯周病原菌に対する免疫に何らかの問題がある。特異的に歯周病原菌を口腔内に持っている。などが考えられます。

 歯周病は内因性の混合感染といわれています。口の中には生まれてすぐ外来性の細菌が住み着きます。それは皮膚でも同じことなんですけど、ヒトが細菌と共生して、新たな外来微生物の定着を阻止する利用している側面があります。食事変化、お手入れの不備などでこの共生のバランスがくずれてしまったといえます。
 口の中の細菌は、分類すると300種類ぐらいいるといわれていますがその中の5種類くらいが歯周病を起こしていると思われています。それは空気の嫌いなグラム陰性桿菌で、歯ぐきが悪くなって歯と歯のすき間の歯周ポケットというものができてしまうとさらに深く入っていくという性格があります。 また、そういった細菌が集まり、これが歯垢またはプラークなのですが最近はその水に溶けにくいべたべたした性質からバイオフィルムということがあります。

 以前は歯周炎は、歯槽骨が溶けるので骨の病と思われていたこともあります。歯垢細菌の刺激で歯肉に炎症が起こると、炎症性の細胞が現れて、そこから骨までの間に必ず一層の健全組織を認めることから、これは、軟組織の疾患であるといえます。
 インプラントも、歯周炎と同じようなインプラント周囲炎というものが起こることがありますが、これは、歯周組織をもたないので直接骨に感染が波及して、骨髄炎になります。

 歯周炎は、骨が薄い前歯などでは歯根が露出する形で進行し、骨が厚い臼歯部などでは、歯垢からの距離で骨が失われるので歯周ポケットを形成する形で進行します。
 歯周炎は、徐々に進行していくものだと考えられていましたが、実際は安定期と進行期をもち、スカンジナビア学派によりバースト説、爆発ですね、といわれています。

 次に、歯周病の診断について説明します。
 ポケットプロービーングといって、メジャーのついたプローブと呼ばれる器具で、歯周ポケットの深さを測ります。健全な歯周組織ならばせいぜい3ミリくらいまでしか入りませんが、歯周炎に陥ると7から8ミリ、10ミリといった数字を取ることもあります。7ミリ以上あるとその歯を救うことが難しくなります。
 このプローブを入れたときに、出血があるかないかも、重要な診断の手がかりとなります。出血があるということは、そこに炎症があるということで、炎症があるということは、そこに炎症性プラークがあるということを意味し、歯肉縁下歯石というものの存在も疑われます。
 それからアタッチメントレベル、臨床的にはあまり利用されていませんが、これは、実際に失われた歯周組織の大きさを表し、露出した歯根面とポケットの深さを合わせたものをいいます。

 歯周病の治療の目標は病気の進行を、そこまででくい止めるというところにあります。
 敵はプラークですから、患者さんの家庭での歯ブラシや歯間ブラシによるプラークの徹底的な除去が もっとも大切なポイントとなります。
 歯石は歯垢がミネラル分を取り込んで固まったもので、細菌もさらに定着しやすい環境になります。これを取り除くことは、歯科医師の役割になります。これがスケーリングやルートプレーニングでして、場合によっては、歯肉を開いて行うフラップオペレーション、歯周外科を行うこともあります。
 深いポケットの場合、出血のない5ミリポケットまで回復することが、治療のめあてになります。
 また、患者さんの歯の健康に対する気持ちを持続していただくために定期的なリコール、歯周サポート治療といわれますが、これも大変大切な歯科医師の役割として位置づけられいます。
 歯周組織の治癒形態は、通常の治療では、長い付着上皮による治癒歯肉が引き締まりピッタリとくっついて、歯根面にヘミデスモゾーム結合というものを形成することによります。

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